Monday, August 4, 2008

自律学習支援におけるLMS活用【発表要旨】

自律学習支援におけるLMS活用
山内 真理
2008.8.12 日本リメディアル教育学会第4回全国大会


日時:平成20年8月11日(月), 12日(火),13日(水)
会場:関東学院大学関内メディアセンター(横浜市中区)
http://univ.kanto-gakuin.ac.jp/modules/media7



1.はじめに
発表者は,2006年後期よりMoodleを利用したオンライン学習活動を対面授業に組み込んでいる。Moodle導入当初は,クラス内学力格差への対応策としてMoodleを有効に活用する方法を検討していたが,TOEIC対策クラス(初/中/上級),「コンピュータ・コミュニケーション」,「英語科教育法」などの性質の異なる科目におけるその後2学期間の授業実践・教材開発・授業内外の学習活動の観察を経て,LMS活用による自律学習促進(学習支援の側面)とオンライン素材の効率的な蓄積/有効活用(準備・運営コストの側面)が現在の主要課題となっている。

2.クラス内学力格差対策としてのMoodle 活用 
TOEIC対策クラスに関しては,導入当初より,Moodle によって容易になる多レベル対応教材の同時配信と即時フィードバックや学習履歴表示が,クラス内の学力格差対策として有効であると期待された。

TOEICテストの性質上,聴解力・読解力の向上を図ることが授業の主目的となるが,受信能力の向上のための反復練習は,Moodleのオーサリング機能で容易に作成できる自動採点式練習問題との相性がよい。また,自動フィードバックや学習履歴表示は,学習者が自分の弱点に応じて必要な練習問題を必要なだけ行うことを可能にする。このような自動採点式練習問題を,様々な難易度で同時に配信できるメリットは大きい。紙媒体を利用して多レベル対応教材の同時配信を行う場合に想定されるフィードバックに関わる問題を容易に回避できるからである。

こうしたオンラインの練習問題は遂行自体が容易であるため,下位層の学習者を自習活動に向かわせる効果もある(Rink & Yamauchi 2008a,2008b)。下位層の学習者に対しては,教材の質や配置,指示の仕方など様々な配慮が必要になるものの,2007年度後期には,事前と事後で初級クラスでの全体的な底上げが観察された(旺文社学力判定テストで「高1」レベルから「高3」レベル)。成功したケースでは,それぞれのレベルにおいて2学期間で100点ほどのスコアアップが見られ,2007年度末のアンケートでは,初級クラスも含めて8割の学生が「授業が終わってもMoodleを利用したい」と答えている。継続したデータ収集が必要ではあるが,Moodleはクラス内学力格差対策として有効に機能しうると考えている(Rink & Yamauchi 2008a,2008b)。

3.リサーチ学習とMoodle活用
コンピュータやインターネットを利用したリサーチと英語による受信/発信に関わるスキルの習得を目標とする「コンピュータ・コミュニケーション」という科目では,2007年の後期より本格的にMoodleを導入した。スキル習得のスモール・ステップ化,自主的な活動への段階的移行,語彙・文法の基礎固めの3点を基本方針とし,自動採点式語彙文法練習問題,フォーラムを利用してスモール・ステップ化を図ったライティング課題,用語集・ウェブサイト・パワーポイントを含む様々なリソースへのリンク,ポップアップヒントなどの学習支援を提供した(山内2008)。

こうした様々な形での学習支援に加え,学習成果の共有(ライティング課題,リサーチの途中経過,プレゼンテーション用スライド,学習者用個人ブログ等)を一つのプラットフォーム上で実現できる点が,LMS活用の大きな利点である。

Arinto(2006)は,学習を「様々なリソースや素材から知識を作り上げること」とみなし,学習の3つの局面(情報の受信・情報の変換・情報の発信)の各局面に応じて学習支援を分類・整理しているが,この分類を踏まえると,発表者の担当した学習者は,全ての局面で,情報の選択と構造化(整理)に関する未熟さが顕著であり,この面での支援の強化が課題となった(山内2008)。

4.Moodle利用と自律学習促進
「学習ニーズの分析・目標設定・目標達成のための計画,学習事項の選択・監督なしでの学習・進度の評価」という一連の活動を含むプロセスを「自律学習」と呼ぶとすると(Sheerin,1997:57),自動採点式クイズは,自己モニタリングのきっかけを作り,「自習」の習慣づけを促すことは期待できるものの,「自律学習」の促進に直結するとは言い難い。実際,「授業が終わってもMoodleを利用したい」との答えが多かった上述のアンケートでも,Moodleの練習問題を「満足がいくまで繰り返した」者は2割に満たなかった。「やりやすい」Moodleのクイズを自分のニーズを自覚しないまま「もう一回ぐらいはやってみる」という「自習」と,Moodleに依存しない「自律学習」との隔たりは大きく,この橋渡しをする工夫が必要である。

一方,2007年度の「コンピュータ・コミュニケーション」では,情報の選択と構造化に関する未熟さ(上述)に加え,自ら情報を求める態度の不足も観察されたが,今学期最初のアンケートと教室内でのリサーチ活動からも同様の傾向―与えられたものだけをそのまま受容する―が観察されている。こうした学習者に対し,全て一箇所で手に入る環境を与えれば,その中だけで満足してしまうおそれがある。インターネットを活用するスキルの習得も目的としているこの授業では特に,Moodleはその外につながる出入り口として位置づけておくべきだろう。

5.自律学習促進と準備コスト軽減
以上のような実践と考察を経て,英語学習に関しては,「自習」から「自律学習」への橋渡しとして,授業外(授業期間後を含む),教員の管理外での学習を促進するために,授業から独立させた語彙・文法・読解・聴解学習用自習コースの作成を計画した。特定の授業を受講しているどうかに関わらずに利用できるコースにするため,特定のテキストに依拠しないオリジナル素材,または公開されている素材を用いる必要がある。

新たなコース作成にかかる作業コストを軽減するため,授業用コースで作成した素材を再利用し,授業内での学習者の貢献を最大限に活用することにした。この方針にそって,現在,授業用コースの素材を用意する際,公開を想定して新規素材の作成と既存素材の修正を進めている。今学期末には,授業で使用した学習素材が一定量蓄積され,それらを組み換えアレンジし直すことで,語彙・文法コースが出来上がる予定である。また,「コンピュータ・コミュニケーション」や「英語科教育法」の授業内活動の一環として学習者が集めている「お勧め」素材を利用して読解・聴解用コースの充実を図る予定である。また「ひとこと感想」用のフォーラムのみで構成した多読コースを設置しており,現時点では「英語科教育法」の授業時間を利用して書き込みをさせている。このコースは感想が蓄積した段階で授業外での利用に移行する予定である。

リサーチ学習に関しては,英語学習とリサーチ学習に関わる全ての活動やリソースを盛り込んだコースを完成させる方向では,半期の学習効果と準備コストの双方の面で問題があることから,英語学習よりも情報の選択と構造化のスキル習得を優先させることにした。ウェブ上の情報を利用する上で授業後も調法すると思われるGoogleの諸サービス(Google,Gmail,Blogger,GoogleDocs等)やオンライン辞書を積極的に活用することで,Moodle上での教材準備コストの大幅な軽減と学習者作品の有効活用が可能になった。英語学習は副次的になったが,現時点で調査結果を英語でスライドにまとめたものを自分のブログに埋め込む作業まで進み,それらの作品は予想以上に見ごたえのある出来ばえになっている。

発表では,Moodle活用の利点を概観した上で,軌道修正後のMoodle運用について,コース設計・教材準備の側面と学習過程・学習成果の側面から報告する。

引用文献
1)Rink,L.& Yamauchi,M.(2008a)Integrating Blended Learning into the Language Classroom. 『神戸海星女子学院大学研究紀要』46,
2)Rink,L.& Yamauchi,M.(2008b)Using a CMS, Moodle,in campus-based teaching. In K. Bradford- Watts(Ed.),JALT2007 Conference Proceedings. Tokyo:JALT. 
3)Arinto,P.B.(2006)Scaffolding Learning. Second National ICTs in Basic Education Congress. 2006年9月6日,7日. URL:http://www.pilipinasschoolnet. net/congress2006/concurrent_demonstrations.htm#Scaffolding_Learning 
4)山内真理(2008)プロジェクト型学習における学習支援.『大学導入教育における英語スタディ・スキルズ教育のためのカリキュラムおよび教材開発 H17~H19年度科学研究費補助金(基盤研究(C))研究成果報告書』,125-140. 
5)Sheerin,S.(1997) An exploration of the relationship between self-access and independent learning. In Benson,P.& Voller,P.(Eds.), Autonomy and Independence in Language Learning,London:Longman,54-65.

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